季節によって空気のにおいが違うのはなぜ?環境の変化と人の感じ方から解説
季節によってにおいが違うのはなぜ?植物や落ち葉、土壌、海の生物が放出する物質や、気温・湿度などの環境条件との関係を解説します。同じにおいでも時期によって印象が異なる理由や、季節と嗅覚の関係についても紹介します。
この記事のポイント
- 季節によってにおいが違うのはなぜですか?
- 植物の活動や落ち葉の分解、土壌や海から放出される物質などが季節によって変化するためです。気温や湿度なども、においの発生や広がり方に影響します。
- 同じにおいでも、時期によって評価が異なることはありますか?
- シナモンのにおいを調べた研究では、夏よりもクリスマスの時期のほうが、シナモンのにおいを「身近で心地よいもの」として評価する傾向がありました。
- 季節によって嗅覚の働きも変わりますか?
- 健康な人の嗅覚が季節によって変化するかどうかは、まだ十分に分かっていません。ただし、花粉症などによる鼻の炎症や鼻づまりは、においの感じ方に影響することがあります。
春の花や新緑、夏の海、秋の落ち葉、冬の焚き火など、季節によって思い浮かぶにおいは異なります。こうした違いには、植物や土壌などから放出される物質の変化に加え、気温や湿度などの環境条件も関係しています。
また、周囲のにおいが季節によって変わるだけでなく、同じにおいでも時期によって印象が異なる場合があります。ただし、周囲のにおいが変化することと、人がにおいを感じ取る能力そのものが変化することは、分けて考える必要があります。
この記事では、季節によって周囲のにおいが変わる理由や、同じにおいでも時期によって評価が異なる場合があることについて、研究や調査をもとに解説します。
季節ごとに、どのようなにおいが連想されるのか
季節ごとに思い浮かぶにおいには、植物や自然環境に由来するものが多くあります。環境庁(現・環境省)が1996年に実施した調査では、春は草花や樹木、夏は海、秋は枯れ葉や落ち葉、冬は焚き火などのにおいが、それぞれの季節を感じさせるものとして挙げられました。[1]
この調査は、環境庁が委嘱した環境モニター1,500人を対象に、郵送で行われたもので、1,407人から回答がありました。1996年に環境モニターを対象として実施された調査なので、現在の日本人全体の傾向を示すものとは限りませんが、においと季節の結びつきを知る手がかりになります。
季節によってにおいが変わるのは、気温が変化するからだけではありません。植物の成長や落ち葉の分解、海の生物の活動などによって、空気中に広がる物質の種類や量も変わります。さらに、季節の行事や過去の経験によって、特定のにおいから季節を思い出すこともあります。
季節によって周囲のにおいが変わる理由
植物が放出する物質が季節によって変わる
植物は、さまざまな香りのもとになる物質を空気中に放出しています。その多くは、常温付近で気体になりやすい「揮発性有機化合物(VOC)」と呼ばれる物質です。植物が放出するものには、テルペン類などが含まれます。テルペン類は、植物がつくる物質のグループで、樹木や草花の香りに関係する成分も含まれています。
植物が放出する物質の種類や量は、植物の種類だけでなく、気温や日差し、植物の成長状態などによっても変化します。温帯に生育する樹木を調べた研究でも、植物に由来する揮発性有機化合物の放出量には、季節による違いが報告されています。[2]
そのため、春の花や新緑、夏の樹木など、季節によって植物から感じるにおいが異なる場合があります。ただし、特定のにおいが決まった季節に必ず強くなるわけではありません。植物の種類や育つ環境、天候などによっても変わります。
落ち葉が分解される過程でも、においのもとになる物質が生じる
秋から冬にかけて地面に積もる落ち葉も、季節のにおいに関係しています。落ち葉は時間がたつと、微生物などの働きによって少しずつ分解されます。その過程で、さまざまな物質が生じ、空気中に放出されることがあります。
複数の樹種の落ち葉を調べた研究では、多くの有機化合物が検出されました。また、検出された物質の多くは、落ち葉を分解する微生物の活動によって生じた可能性が示されています。[3]
つまり、落ち葉のにおいには、落ち葉そのものに含まれる成分だけでなく、分解が進む過程で生じる物質も関係しています。実際に感じられるにおいは、落ち葉の種類や分解の進み具合、水分、気温などによって異なります。
土と空気の間で、においのもとになる物質の動きも変わる
土は、においのもとになる物質を空気中に放出するだけでなく、空気中の物質を吸収することもあります。こうした土と空気の間で起こる物質の移動は、季節によって変わる場合があります。
地中海地域の森林土壌を調べた研究では、春と秋には土壌から揮発性有機化合物が放出される一方、夏には土壌がこれらの物質を吸収する働きが強まることが示されました。また、植物がつくる香り成分などに関係するイソプレノイド類についても、年間を通じて、土壌からの放出量より吸収量のほうが多いことが報告されています。[4]
ただし、この研究の対象は、特定の地域にある森林の土壌です。土壌の種類や環境条件が異なれば、物質の放出や吸収の傾向も異なる可能性があります。この研究は、土と空気の間で起こる物質の移動が、季節によって変化する例を示しています。
海の生物がつくる物質も、海のにおいに関係する
海辺で感じる独特のにおいにも、海の中にいる微生物や植物プランクトンなどが関係しています。こうした生物は、ジメチルスルホニオプロピオン酸(DMSP)という硫黄を含む物質をつくります。DMSPは、微生物などの働きによって、ジメチルスルフィド(DMS)という別の物質に変わることがあります。[5]
DMSは空気中に移りやすい性質を持ち、海から大気中に放出されます。海の生物がDMSPをつくり、それがDMSに変わる仕組みは、海のにおいを考えるうえでも関係する現象です。[6]
ただし、海のにおいがDMSだけで決まるわけではありません。海にはさまざまな物質が存在し、海岸の地形や波、風、周辺にいる生物なども関係します。また、海のにおいが夏に必ず強くなるとは限りません。
気温や湿度、風によってもにおいの感じられ方が変わる
においの感じられ方は、においのもとになる物質の種類や量だけで決まるわけではありません。周囲の環境も関係しています。
例えば、気温が変わると、物質が空気中に出やすくなる程度が変化します。また、風が吹くと、においのもとになる物質が運ばれ、広がり方も変わります。雨が降ると地面の状態が変わり、土などから生じるにおいの感じられ方が変化することもあります。
ただし、気温が高いほど必ずにおいが強くなる、湿度が高いほど必ずにおいを感じやすくなる、といった単純な関係ではありません。物質の性質や発生源、風などの条件によっても変わります。
このように、季節によって周囲のにおいが変わる背景には、植物や微生物などの活動による変化と、においのもとになる物質が空気中に広がる条件の変化があります。
同じにおいでも、時期によって評価が異なる場合がある
同じにおいでも、評価する時期によって、親しみやすさや心地よさの評価が異なる場合があります。ただし、研究で異なる結果が得られたからといって、同じ人の感じ方が時期によって変化したとは限りません。研究の方法や対象者を踏まえて結果を解釈する必要があります。
シナモンは、夏よりクリスマスの時期に好ましく評価された
シナモンのにおいを対象とした研究では、夏とクリスマスの時期に、12種類のにおいについて、どの程度なじみがあるか、どの程度心地よいかが評価されました。夏に参加した人は41人、クリスマスの時期に参加した人は51人で、同じ人を季節をまたいで調べた研究ではありません。
その結果、シナモンのにおいは、夏よりもクリスマスの時期に、よりなじみがあり、心地よいと評価されました。[7]
この研究はドイツで行われたため、結果を日本を含むすべての地域にそのまま当てはめることはできません。また、クリスマスの時期にシナモンの評価が高くなった理由も、この研究だけでは明らかになっていません。
季節の行事や、それにまつわる経験が関係している可能性はありますが、研究で直接確かめられたわけではありません。この研究から分かるのは、別々の参加者グループを比べたところ、シナモンのにおいに対する評価が夏とクリスマスの時期で異なっていたということです。
においは、個人的な記憶や経験とも結びついている
においをきっかけに、過去の出来事や場所を思い出すことがあります。英国の森林で、自然のにおいと人の心身の状態との関係を調べた研究では、森林で感じるにおいが、心身の状態に関する複数の側面と関連し、個人的な記憶とも結びついていることが報告されました。[8]
例えば、ある人にとって心地よいにおいでも、別の人には不快に感じられることがあります。同じ人でも、過去の経験や、そのときの状況によって印象が異なる場合があります。
ただし、この研究は自然のにおいと心身の状態との関係を調べたもので、あらゆるにおいの感じ方が記憶や気分によって変わることを証明したものではありません。においの種類や個人の経験、周囲の環境などによって、感じ方は異なります。
季節によって嗅覚そのものも変化する?
周囲のにおいが季節によって変わることと、人がにおいを感じ取る能力そのものが季節によって変わることは、別の問題です。健康な人の嗅覚が季節によってどの程度変化するのかについては、まだ十分に分かっていません。
花粉症などによる鼻の症状は、においの感じ方に影響する
季節によって鼻の調子が変わる人もいます。例えば、花粉症などのアレルギー性鼻炎では、鼻の粘膜に炎症が起きたり、鼻づまりが生じたりします。こうした症状によって、においを感じにくくなることがあります。[9]
ただし、花粉が多い時期ににおいを感じにくくなったからといって、原因が必ず花粉症にあるとは限りません。嗅覚の変化には、鼻や副鼻腔の病気、感染症など、さまざまな要因が関係する可能性があります。
嗅覚の不調で受診する人の数には、季節による違いが報告されている
においを感じにくいなどの嗅覚の不調を訴えて医療機関を受診した人を調べた研究では、1999年から2017年までの受診データに季節による違いがみられ、3月に受診者数が多くなっていました。[10]
ただし、この研究が調べたのは、嗅覚の不調を訴えて受診した人の数です。健康な人の嗅覚が春に低下することや、季節によって嗅覚の感度が一律に変化することを直接示したものではありません。受診者数に季節による違いがあった理由も、このデータだけでは特定できません。
そのため、季節によって嗅覚そのものが変化するかどうかについては、慎重に考える必要があります。一方で、花粉症などによる鼻の炎症や鼻づまりが、においを感じる働きに影響することはあります。
においを感じにくい状態が続く場合や、急ににおいの感じ方が変わった場合は、季節の影響だと決めつけず、耳鼻咽喉科などの医療機関に相談してください。
まとめ
季節によって周囲のにおいが変わるのは、植物が放出する物質や、落ち葉の分解によって生じる物質、土壌と空気の間でやり取りされる物質、海の生物がつくる物質などが変化するためです。気温や湿度、風といった環境条件も、においの発生や広がり方に影響します。
また、同じにおいでも、時期によって親しみやすさや心地よさの評価が異なる場合があります。ただし、シナモンの研究では夏とクリスマスの時期に別々の参加者グループを比較しており、同じ人の感じ方が季節によって変化したことを示すものではありません。評価が異なった理由も明らかになっていません。
一方、周囲のにおいが季節によって変化することと、人の嗅覚そのものが季節によって変化することは別の問題です。花粉症などによる鼻の炎症は嗅覚に影響する場合がありますが、健康な人の嗅覚が季節によってどの程度変わるかについては、まだ十分に分かっていません。
よくある質問
- 雨が降ると、土や草のにおいが強く感じられるのはなぜですか?
- 雨粒が土に当たると、土に含まれる物質を運ぶ微小な粒子が空気中に放出されることが、研究で確認されています。この現象が、雨の後の土のにおいが広がる理由の一つではないかと考えられていますが、まだ仮説の段階です。感じられるにおいは、土の種類や雨の降り方などによって異なります。[11]
雨の日はなぜにおいを強く感じる?湿度とにおいの関係
- 季節によって、においの感じ方が変わったら病気を疑うべきですか?
- 一時的な感じ方の違いだけで、病気があるとは限りません。ただし、においを感じにくい状態が続く場合や、急に嗅覚が変化した場合は、季節の影響だと決めつけず、医療機関に相談してください。
参考文献・出典
- 環境庁(現・環境省)「平成8年度環境モニター・アンケート『におい環境について』の調査結果」(1996年12月13日) https://www.env.go.jp/press/625.html
- Wu et al. “Seasonal biogenic volatile organic compound emission factors in temperate tree species: Implications for emission estimation and ozone formation.” Environmental Pollution. 2024;361:124895. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39243933/
- Isidorov V, Jdanova M. “Volatile organic compounds from leaves litter.” Chemosphere. 2002;48(9):975–979. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/12222793/
- Yang K, Llusià J, Preece C, Ogaya R, Márquez Tur L, Mu Z, You C, Xu Z, Tan Y, Peñuelas J. “Impacts of seasonality, drought, nitrogen fertilization, and litter on soil fluxes of biogenic volatile organic compounds in a Mediterranean forest.” Science of the Total Environment. 2024;906:167354. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37774858/
- Todd JD, Zhang Y-Z, Li C-Y, Cao H-Y, Payet RD. “Dimethylsulfoniopropionate (DMSP): From biochemistry to global ecological significance.” Annual Review of Microbiology. 2024;78(1):513–532. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39231449/
- Stefels J. “The smell of the sea: Production of dimethylsulphoniopropionate and its conversion into dimethylsulphide by the marine phytoplankton genus Phaeocystis.” Doctoral thesis, University of Groningen. 1997. https://research.rug.nl/en/publications/the-smell-of-the-sea-production-of-dimethylsulphoniopropionate-an/
- Seo H-S, Buschhüter D, Hummel T. “Odor attributes change in relation to the time of the year. Cinnamon odor is more familiar and pleasant during Christmas season than summertime.” Appetite. 2009;53(2):222–225. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19576937/
- Bentley PR, Fisher JC, Dallimer M, Fish RD, Austen GE, Irvine KN, et al. “Nature, smells, and human wellbeing.” Ambio. 2023;52:1–14. https://link.springer.com/article/10.1007/s13280-022-01760-w
- Patel ZM, Holbrook EH, Turner JH, et al. “International consensus statement on allergy and rhinology: Olfaction.” International Forum of Allergy & Rhinology. 2022;12(4):327–680. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35373533/
- Lötsch J, Hummel T. “A data science-based analysis of seasonal patterns in outpatient presentations due to olfactory dysfunction.” Rhinology. 2020;58(2):151–157. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31799517/
- Joung YS, Buie CR. “Aerosol generation by raindrop impact on soil.” Nature Communications. 2015;6:6083. https://www.nature.com/articles/ncomms7083
運営・編集:におい展実行委員会
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