プラスチック製品はなぜ臭う?正体と原因を科学的に解説
プラスチック製品のにおいはなぜ生じるのでしょうか。樹脂や添加剤に由来する揮発性物質の正体や、時間・温度・リサイクルによる変化を科学的に解説します。においと安全性の関係や、においを弱める方法も紹介します。
新品の収納ケースや家電、おもちゃなどを開けたとき、プラスチック特有の独特のにおいが気になったことはないでしょうか。時間がたつとにおいが変化することもあれば、暑い場所で強く感じることもあります。
プラスチック製品のにおいは、特定の一つの成分だけが原因ではありません。プラスチックの原料となる樹脂や、性質を調整するための添加剤などに由来する物質が空気中に放出され、そのうち、においを持つ物質を鼻が感じ取ることで、独特のにおいが生まれます。
製品によって使われる樹脂や添加剤、製造方法は異なります。そのため、同じプラスチック製品でも、においの種類や強さはさまざまです。
プラスチック製品がにおうのはなぜ?
プラスチック製品がにおうのは、製品に含まれる成分の一部が空気中に放出され、その中のにおいを持つ物質を鼻が感じ取るためです。
プラスチックには、ポリプロピレンやポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなど、さまざまな種類があります。また、製品を丈夫にしたり、劣化しにくくしたりするために、酸化防止剤などの添加剤が使われることもあります。
こうした樹脂や添加剤に由来する物質のほか、製造時に使われた物質の一部が製品に残り、あとから空気中に放出されることもあります。放出された物質の種類や量によっては、プラスチック特有のにおいとして感じられます。
空気中に放出されやすい有機化合物は、揮発性有機化合物(VOC)と呼ばれます。ただし、プラスチック製品から放出される物質がすべてにおいを持つわけではありません。
プラスチックの独特なにおいの正体は何?
「プラスチック臭」という名前の一つの物質があるわけではありません。複数の物質が放出され、それらのにおいが組み合わさることで、プラスチック特有のにおいとして感じられることがあります。
2021年に発表された研究では、ポリプロピレンを主成分とする材料から、30種類のにおい物質が検出されました。そのうち18種類について濃度を測定し、実際のにおいにどの程度関係するかが評価されました。
この評価には、物質の濃度を、人がにおいを感じ始める濃度(閾値)と比較する方法が使われています。この比は「におい活性値(OAV)」と呼ばれ、値が大きいほど、その物質がにおいに影響している可能性が高いと考えられます。
研究では、におい活性値が1以上だった物質として、ヘキサ-1-エン-3-オン、酪酸、4-メチルフェノール、1-ブタノール、2-tert-ブチルフェノールの5種類が報告されました。なかでも、ヘキサ-1-エン-3-オンのにおい活性値は12でした。
さらに、添加剤の異なる複数のポリプロピレン材料を比較した結果から、ヘキサ-1-エン-3-オンは、プラスチックらしい刺激的なにおいに関係する主要な物質の一つであり、複数の材料に共通して見られることが示唆されています。
ただし、これは特定のポリプロピレン材料を調べた研究の結果です。樹脂の種類や添加剤などが異なれば、においに関係する物質も変わる可能性があります。すべてのプラスチック製品が同じ物質によってにおうわけではありません。
プラスチック製品から放出される成分は、時間とともに減る?
プラスチック製品から空気中に放出される揮発性物質の量は、時間とともに減少することがあります。ただし、どのくらい変化するかは、製品や物質によって異なります。
2023年に公表されたヨーク大学の博士論文では、家庭で使われるプラスチック製品から放出されるVOCの量が、時間の経過とともにどう変化するかを調べています。
実験では、購入した製品を洗浄して冷暗所に保管した後、台所と浴室の窓辺に置き、時間を追って測定しました。この方法は「自然エージング」と呼ばれ、実際の環境に近い条件で時間を経過させ、変化を調べるものです。窓辺に置くため、日当たりなどの影響も受ける条件でした。
測定したのは、VOC全体ではなく、研究で選ばれた特定の物質です。その多くでは、実験開始から1~4か月目に放出量が高く、その後、低下する傾向が見られました。ただし、すべての物質が同じように変化するわけではありません。
また、ベンゼン環などの環状構造を持つ有機化合物の一群を「芳香族化合物(ほうこうぞくかごうぶつ)」といいます。研究では、こうした芳香族化合物の放出量が、実験開始から1~12か月の間に50~90%減少したと報告されています。この数値は芳香族化合物についての結果であり、すべてのVOCに当てはまるものではありません。
この研究から分かるのは、特定の製品から放出される物質の量が、時間の経過とともに変化する場合があるということです。放出量が減ったからといって、においの強さも同じ割合で弱くなるとは限りません。においは、物質の種類や量、それぞれのにおいの感じやすさによって変わるためです。
プラスチック製品は温度が上がると、放出される成分は増える?
プラスチック製品では、温度が上がると、空気中に放出される揮発性物質の量が増えることがあります。
2023年に発表された研究では、家庭で使われるプラスチック製品を対象に、温度とVOCの放出量の関係が調べられました。18~28℃の範囲で実験したところ、測定したVOCのほとんどで、温度が高くなるほど放出量が増える関係が確認されました。
放出される物質が増えれば、においを強く感じることもあります。ただし、この研究で測定されたのはVOCの放出量であり、人が感じるにおいの強さそのものではありません。放出される物質がすべてにおいを持つわけでもないため、温度が上がれば必ずにおいが強くなるとはいえません。
また、実験された温度は18~28℃の範囲です。真夏の車内のような高温の環境でも、同じ関係がそのまま成り立つかどうかは、この研究だけでは分かりません。実際の放出量は、樹脂の種類や製品の組成、温度などによって変わります。
プラスチックの種類によってにおいが違うのはなぜ?
プラスチックの種類によって、材料の化学構造や配合、使われる添加剤などが異なるため、放出される物質やにおいの特徴にも違いが生まれます。
例えば、ポリプロピレンとポリエチレンは、化学構造の異なる樹脂です。さらに、製品の硬さや耐久性などを調整するために加えられる添加剤も、製品ごとに異なる場合があります。
そのため、同じプラスチック製品でも、樹脂の種類や配合、製造条件によって、においの種類や強さが変わることがあります。
プラスチックの添加剤はにおいに関係する?
添加剤がプラスチック製品のにおいに関係する場合があります。ただし、においの原因が添加剤だけとは限らず、発生源が特定されていない物質もあります。
添加剤は、プラスチックの性質を調整するために使われます。例えば、可塑剤(かそざい)は材料を柔らかくするため、安定剤は熱や光などによる劣化を抑えるため、難燃剤(なんねんざい)は燃えにくくするために使われます。酸化防止剤は、酸素による劣化を抑える役割を持ちます。
こうした添加剤の一部は、使用中やリサイクルの過程でプラスチックから移動したり、空気中に放出されたりすることがあります。ただし、添加剤が含まれていることや、物質が放出されることだけで、においの原因だと判断することはできません。
先ほど紹介したポリプロピレンの研究では、タルクという鉱物粉末を加え、フェノール系酸化防止剤を使った材料から、特定のアルキルフェノール類が確認されました。アルキルフェノール類は、フェノールという化合物の構造に、アルキル基と呼ばれる炭化水素基が結びついた化合物のグループです。
一方、プラスチックらしい刺激的なにおいに関係すると考えられたヘキサ-1-エン-3-オンについては、発生源が明らかになっていません。添加剤がにおいに関係する例はありますが、プラスチック製品のにおいを一つの原因だけで説明することはできません。
リサイクルプラスチックがにおうことがあるのはなぜ?
リサイクルプラスチックでは、再生された樹脂に含まれる揮発性物質などが、においに関係することがあります。
2020年に発表された研究では、ポリプロピレンを約85~90%、高密度ポリエチレンを約10~15%含む特定の再生樹脂が調べられました。その結果、2,4-ジメチルヘプタンが不快なにおいの主な原因として特定され、4-メチルオクタンもにおいに関与する可能性が示されました。一方、D4と呼ばれる環状シロキサンは、それ自体ににおいはありませんが、においのある残留物が存在することを示す指標となる可能性が報告されています。
環状シロキサンは、ケイ素と酸素が環状につながった構造を持つ化合物のグループです。この研究で確認された3成分は、調べた再生樹脂のにおいに関係する物質として報告されています。
ただし、これは特定の再生樹脂を対象とした結果です。すべてのリサイクルプラスチックに同じ成分が含まれているわけではありません。原料や再生方法、製品の組成などによって、においに関係する物質は異なる可能性があります。
そのため、リサイクルプラスチックだから必ずにおうというわけではありません。においの有無や強さは、使用する原料や再生工程、製品の組成などによって変わります。
プラスチックのにおいが強いほど危険なの?
においの強さだけで、製品の危険性を判断することはできません。
人がにおいを感じる濃度と、健康への影響が問題になる濃度は、物質によって異なります。そのため、強いにおいがするから危険、反対ににおいがしないから安全、と単純に判断することはできません。
食品に触れる容器や包装などについては、においの強さだけでなく、用途に応じた安全性や規格への適合を確認することが重要です。日本では、食品用器具・容器包装に使われる合成樹脂について、ポジティブリスト制度による管理が行われています。経過措置は2025年5月31日に終了し、同年6月1日から本格適用されています。この制度では、原則としてリストに収載された物質のみを使用できる仕組みです。ただし、制度への適合と製品のにおいの有無は別の問題であり、においの強さだけで安全性を判断することはできません。
この制度は、食品用器具・容器包装に使う物質を管理するための仕組みであり、においの有無や強さを直接管理するものではありません。製品の用途や表示、使用方法を確認し、適切に使うことが大切です。
強いにおいに加えて、目や喉への刺激、頭痛などの体調不良を感じた場合は、無理に使い続けず、換気したり使用を中止したりしてください。症状が続く場合や強い症状がある場合は、医療機関に相談しましょう。
プラスチック製品のにおいを弱くするには?
プラスチック製品のにおいが気になる場合は、まず換気を行い、放出された物質が室内にたまりにくい環境にすることが基本です。
- 風通しのよい場所で換気する
- 製品の説明書に洗浄方法が記載されている場合は、それに従う
- 高温になる場所に長時間置かない
- 強いにおいが長期間続く場合は、メーカーに確認する
洗浄できる製品でも、においが十分に弱まるとは限りません。製品の内部に含まれる成分は、洗浄しても取り除けない場合があります。また、製品によっては洗浄が適さないこともあるため、自己判断で洗剤や薬剤を使わず、メーカーの取り扱い方法に従ってください。
プラスチックのにおいについてよくある疑問
- プラスチックのにおいがなくなれば、揮発性物質もなくなったと考えていいですか?
- いいえ。においがなくなったことだけで、揮発性物質が完全になくなったとは判断できません。物質によってにおいを感じる濃度が異なるため、においがしなくなっても、物質が残っている可能性があります。
- 暑い日にプラスチックのにおいが強くなるのは、危険性が高くなったということですか?
- 必ずしもそうとはいえません。温度が高くなると揮発性物質の放出量が増えることがありますが、それだけで健康への影響が決まるわけではありません。体調不良を感じた場合は、換気や使用の中止などの対応を取り、症状が続く場合は医療機関に相談してください。
- リサイクルプラスチックは必ずにおいますか?
- いいえ。特定の再生樹脂を調べた研究では、においの強さに関係する複数の成分が報告されていますが、その結果がすべてのリサイクルプラスチックに当てはまるわけではありません。原料や再生方法、製品の組成などによって、においに関係する物質は異なる可能性があります。
- 食品用のプラスチック容器は、においがしなければ安全ですか?
- においの有無だけで安全性を判断することはできません。食品用の器具・容器包装には用途に応じた規格があり、合成樹脂についてはポジティブリスト制度による管理も行われています。製品の表示や使用方法を確認し、用途に合った使い方をすることが重要です。
まとめ
プラスチック製品の独特なにおいは、プラスチックに共通する一つの物質だけが原因ではありません。樹脂や添加剤などに由来する揮発性物質のうち、においを持つ物質が空気中に放出されることで感じられます。
家庭に置かれたプラスチック製品では、時間の経過とともに、放出される揮発性物質の量が変化する場合があります。また、温度や樹脂の種類、添加剤、リサイクル原料なども、放出される物質やにおいの特徴に関係します。
一方で、においの強さだけから製品の危険性を判断することはできません。においが気になる場合は換気を行い、製品の説明書に従って適切に使用することが大切です。
参考文献・出典
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- 消費者庁「食品用器具・容器包装のポジティブリスト制度について(2025年6月1日以降)」 https://www.caa.go.jp/policies/policy/standards_evaluation/appliance/positive_list_new
運営・編集:におい展実行委員会
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